「その眼帯をした何とか言う名の恥ずべき大佐を逮捕したまえ!」
同盟国視察団とともに美術品を鑑賞中、蘊蓄を披露するフロム上級大将(中央、着剣)。すぐ左はナチ党外 国支部機関(AO)大管区指導者ボーレ。
フロムは予備軍司令官であったが、参謀長のシュタウフェンベルク大佐がヒトラー暗殺未遂の爆弾犯人だったため連座して逮捕、処刑された。
実際にはフロムは完全に暗殺計画に加担していたわけではなかった。軍高官で積極的に加担したのは元参謀総長のベック退役上級大将、駐フランス
軍政長官シュトゥルプナーゲル上級大将、元装甲軍団長へプナー予備上級大将くらいである。これらの「反逆将官」は元帥にはなれず、軍主流からはずされ、
個人的にヒトラーを恨んでいた。彼等は、「モルトケ以来」の「プロイセン参謀本部直系たる自己」の妄想に取り付かれており、「御老体」ルントシュテット元 帥、
「傀儡」カイテル元帥、「不作法」モーデル元帥などがヒトラーに重用されているのが気に入らなかった。しかも狭いサークル内で勝手に持ち上げていた「参謀 本部主流」
マンシュタイン元帥までもが自分達を軽んじているのが我慢ならなかった。そこで、シュラブレンドルフ、ハンゼン、オスター、シュタウフェンベルクなど、
大佐、少将クラスの貴族出身者を焚き付けて実行に移させたのである。日本の2・26事件と酷似した面があるが、異なるのは荒木・真崎がのうのうと
していたのに対し、3上級大将は全員死刑となったことである。さて、フロムだが、暗殺が成功すれば賛成表明してOKH入りだ、くらいの気持ちでいたが、
失敗したとなるや、シュタウフェンベルクを逮捕して即銃殺してみたり、べックにお引き取りを願ったりしてみたがかえって怪しまれ、自分もあえなく逮捕され た。
この様子からみても、ヒトラー暗殺未遂がよく言われる「愛国心」「国民のため」「ファシズムへの抵抗」などではなく、個人的欲求実現のために過ぎず、
言い訳としてお題目を持ち出したのに加えて、戦後のドイツ人の代償行動につかわれたことが明らかであろう。
そもそも彼等陸軍高官には「路上で長いナイフを研」いだ過去がある。
「・・・ヒトラー暗殺未遂事件に大多数の民衆が憤激したのはうそいつわりではなかった」のである。